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南稜トリコニー


ウェストンと嘉門次が開いた
クラシックルート
小雨に煙る南稜トリコニー
YMCC夏山合宿


紀見子平
紀見子平
とき: '97.8.7夜~10
ところ: 穂高岳岳沢
参加者: L.森本T、中川K、日野K、岡尾T、森本E子、木下K、北川K(涸沢)

7日(木)

 大阪駅午後5時の新快速に乗るという予定で、中央コンコースから階段を上がったところに集合ということだった。15分前ぐらいに行けば川原健一、栄田浩 也・黒部川パーティと見送りの小島嘉寿夫さんが見えていた。小島さんにはザイルを借りる約束をしており、わざわざお持ちいただいた。まだ仕事の途中か、 ビールをすすめてもお断わりになる。

今年も青春18切符で夏山へ

 今日は青春18切符での先発で、穂高・岳沢隊は森本、中川の二人。ところが森本さんがなかなか到着しない。ま、いずれかの車両に飛び乗りもあるかもしれ ないと思い、定刻の新快速に乗車。ドアが閉まる寸前、森本さんが到着、やれやれ。通勤電車のため、そこそこ混んでいたが、京都でみんな座席を確保できる。 大津(?)だったか、新井Y子さんが乗車で、黒部川隊の先発組は揃う。彼らは今夜の「ちくま」21:03で追っかけてくる荒木K、村田S子さんを加えて5 人パーティとなる。
 穂高の方は8日朝発の日野Kさん、8日夜行「ちくま」の岡尾T、森本E子さんで、同じく5人パーティ。また、最近肩を痛めて無理はできない北川K君は単独行で涸沢から奥穂高~吊尾根~岳沢の予定で、同じく8日のちくま。さらに9日のちくまで木下清さん。
 米原、名古屋、中津川と快速、普通を乗り継いで松本駅着。去年は駅舎売店横で横になったが、今年は雰囲気が違う。1:45~3:15の間駅舎には入らせ ない方針になったようだ。そこで駅前の屋根のあるところには、すでに多くの人たちでいっぱい。特に下山した学生パーティ、青春切符で旅行中の学生たちが多 い。
 われわれもその一角に陣取って眠る。風が通って快適、少し寒いくらい。

8日(金)

 4:00前、「それでは行ってくるからね」と、黒部川隊は「ちくま」でやってくるメンバーと合流すべく、早々と駅構内へと階段を上がっていく。
穂高岳沢隊は急ぐ旅でなし、もう一眠り。いつの間にかバシャバシャと大粒の雨になっていた。
上高地へはタクシーが早いが、相乗りでも一人3,000円~4,000円。松本電鉄の電車と新島々からのバスの場合、片道2,500円、往復なら 4,600円だから、随分割安となる。今回のテーマの一つは、青春18切符の精神、いかに安く、ということだから、当然後者を選ぶ。タクシーの客引きは盛 んに起きたての人に話し掛けているが、なかなか乗ってくれないようだ。
われわれ2人に対しても、「よしっ、一人4,000円で行ってあげよう」、大値引きの大サービスだというような口振り。折角だがお断わり申し上げる。
松本電鉄新島々行きの始発は6:40、どうせ雨のなか、ゆっくりしようと駅そばをいただいてから、7:23発に乗車。ガラガラ、よく空いた電車。
新島々では若い駅員が重いザックをバス後部に整理してくれる。最近はタクシーとの競合もあってか、荷物代はとらない。バスの乗客は11人と、ここもガラガラ。ウツラウツラしながら窓外の雨にしっぽり濡れる木々の緑と梓川の風景に心落ち着く。
杖を持ち、軽いザックの白髪の男(70才とおっしゃった)が、今日は涸沢、明日は穂高小屋または吊尾根を経て岳沢下りとのこと。「涸沢まで行けるでしょ うか」とか、「この天気で奥穂高は大丈夫でしょうか」、「重太郎新道はどんなんでしょうか」とか、盛んにお尋ねになる。不安感からの質問かと思えばそうで もない。「この雨は台風崩れでぐずつきますな」、「奥穂高小屋までは問題ないと思います」とか自信を持っておっしゃったりする。
こちらは眠いので、独り言か質問か不明なことには応えない。

雨の日はゆっくりしよう熱燗で

上高地も雨、しばらく小止みになるまで待とう。ビールは体が冷えるのでアツカンのワンカップをいただく。11:00ごろ、霧雨模様のなかを出発。河童橋の自販機で缶ビールを仕入れる。(ロング缶350円、270円)
  梓川は濁流となり、すごい水流。「これでは黒部川の沢登りは無理やな」と思う。マガモも水流の小さなところに避難している。
  観光の散策の人たちとすれ違いながら、やがて岳沢道分岐に至る。話好きなおばさんが「奥穂高に登ってきました。とってもいい天気で絵はがきそっくりで感動しました」、一昨日、涸沢から奥穂高を往復されたよし。
  降ったり止んだり、傘をさしたりたたんだり、を繰り返し、岳沢道を登る。きのこもいろいろ。ツチカブリ、イグチの仲間、アキヤマタケ、ワタカラカサタケ、ヌメリガサの仲間・・・
  去年は立派なハナビラタケがあったな。
  途中2回休んで岳沢ヒュッテに到着。テント泊の手続き(一人一泊500円)をして、テント場に至る。一番大きな場所には外人1人と女学生2人パーティの   2張りのテントあり。真ん中にわれわれの6人用テントを設営する。付近は大きな水流があり、テント場も半分ほど水が貯まっている。そこは石を敷き詰めたよ   うな場所で、大きめの石を動かせば水抜きができる。
  テント設営後は早速宴会。缶ビール、焼酎の湯割り…
  午後4時過ぎ、朝大阪を新幹線でたった日野さんを迎えに出る。小屋をほんの少し下ったとき、彼が登ってきた。「やあ、ご苦労さん。」
  その晩は中華丼にビール、焼酎。たっぷりよばれて、ぐっすり眠る。

紀見子平より岳沢

紀見子平より岳沢

9日(日)

 雨は降ったり止んだり。やがて、岡尾T、森本E子さんが到着するのを待つ。「あと30分で岳沢ヒュッテのところです」、森本E子さんからの交信あり。8:30彼らの早い到着。雨は上がったが、ガスは深い。
早速、登攀準備。今日の天気は夕方から明日にかけて雨とのこと。当初の予定は「コブ尾根を登り稜線ビバーク、翌日ジャンダルム飛騨尾根」だったが、雨の ビバークはつらいので、森本リーダーはいわく「南稜にしましょうか。」ザイルは森本、中川の2本、最小限の登攀具を装備し出発。
扇沢左岸のガレ場をたどりつつ、やがて沢身に下りてゴロゴロ岩を伝い、雪渓に入る。みんな4本爪アイゼンないし軽アイゼン着用。中川は忘れてきたので荷造り用ビニール紐をフィーレ(登肇靴)に巻き付ける。
E子さんは軽アイゼンをうまく靴の先端部にセット、これはかなり有効と思う。岡尾君は鍛造の4本爪、「かあちゃんのヤツを借りてきた」とのことだが、 がっちりして安定感がある。日野さんの軽アイゼンは土踏まずにゴム紐でセットするもので、爪が短く、雪渓をきっちりとは捕らえられない。「靴を横向きでア イゼンを効かせるんだよ」との森本さんのアドバイスがあるが、彼は「これはダメだ、8本爪を持ってくるべきだった」と後悔の弁しきり。
夏の雪渓にはスプーン・カットの穴ボコが幾何学模様となって続いている。これをうまく拾っていけば30度ぐらいの傾斜ならば余裕をもって登ることができる。ビニール紐も結構有効だった。

南稜は強風と岩とお花畑

 雪渓のドン詰まり右岸側から岩場に移り、みんな登攀シューズに履き替える。見下ろす雪渓の下、2人、3人の登山者が間違って後をついてきた。やがて気が 付いたのか、ガラガラ音を立てて落石を落としながら下っていく。何回か「重太郎新道はテント場からだ」、とコールを送ったが、2~300m離れていれば声 は届かない。
 このあたり、よく間違えるようだ。今朝も外人の単独行さんが踏み込んで、引き返してきたが、テント場から右へ入る道が明瞭でないせいなのだろう。
 オーダーは森本T、E子、岡尾、日野、中川と続き、はじめはⅡ級程度の快適なルンゼをノーザイルでどんどん登っていく。明るく解放感のあるルートだ。去年はじめてたどったが、ウェストンや嘉門次が登ったクラシック・ルートとして味のあるものを感じた。
 谷側を振り返れば・重太郎新道の岳沢展望台から大声を発している黄色い上着をきた男が見えた。他にも数人、こちらを展望しているようだった。声の主は、多分、「そこのコースは間違いだから引き返せ」とでもおっしゃっているのではないかと思う。
 3本ルンゼが合流する左を登り、すぐ左トラバースしてから草付きブッシュを登り、屏風状岩壁帯の下を右へ回り込む。やや濃密なブッシュを漕いでから、右 手の草付きルンゼを登り、岩とハイマツの間を抜けてから、トリコニーの岩壁を左・右と選びながら高度を稼ぐ。シャクナゲのピンクの花びらが落ちて朽ちてい く。やがて短い夏が終わっていく。ガスが濃く、展望が利かない。アルパインのロングルートが初めての日野さんは高度感とやや強い風(10~15m)に圧倒 され、口数は多いが、精神的にはかなりの緊張感があったようだ。
 次々とトリコニーの鋲の頭を越え、ガスで不明瞭な南稜ルートを探して登っていく。霧にぬれたウサギギク、ミヤマウスユキソウ、チングルマ、ツメクサ・・・いま盛りと可憐な花を咲かす。
 14:00南稜の頭。缶ビールで乾杯、日野さんもよく頑張りました。「何回も死ぬかと思った」とのことだったが、どうもお疲れ様。
 10数人のパーティが奥穂高へ向かって行かれる。「岳沢ヒュッテを6時に出ました」とのこと、大パーティとしては標準的だろう。

紀見子平より西穂稜線はガス

紀見子平より西穂稜線はガス

安全にゆっくり下ろう重太郎新道

 さあ、下山も登山の一部、ベースへたどりつくまで気は抜けない。日野さんは血圧低く調子がよくないらしい。脈拍は130、休憩してもなかなか下がらないとのこと。急ぐことはない、安全確実に一歩いっぽです、ゆっくり下りましょう。
 紀美子平で一休み、登った南稜はあの尾根だ、こちらの尾根だと、意見がバラバラ。ガスのなかで部分的にしか姿を現わさないので、もうひとつはっきりしない。イワヒバリがすぐそばに近付いて、人が残したパン屑かなにかをついばむ。
 ここから下り一方、一般コースとはいえ、なかなかこたえる。鎖場8箇所、ハシゴ5箇所ほどあるか、安定しているとはいえ、傾斜がきついからえらい。急い でくだれば1時間、ゆっくり下れば2時間半。紀美子平を15:30発、テント場18:00ごろになったが、安全に下山することができた。
 森本さんたちはやや先行し、テントでおいしい食事の用意をしていただいた。
 登山中、一時小雨があったが、ほとんど霧・ガス程度で恵まれたが、テント場に着いてから、ザーッと待ち兼ねていたように雨がやってきた。
 その夜は日野さんは小屋に素泊まり、後のメンバーは21:00ごろまで静かに宴会を楽しんだ。

10日(日)

雨により停滞よりも下山かな

 厚いガスに包まれた岳沢。ときどき雨、今日は停滞を決め込む。食料と酒を担いで木下Kさんが登ってくる日。
 7:30ごろ、無線で木下さんからのコールあり。岳沢道に入るあたりで電波を発射。えらく早いなと思う。
 9:40ごろ、森本E子さんと日野さんは下山。入れ代わりに、10:00木下さん到着。さあ、再び宴会の続き、木下さんの缶ビールやウィスキーをよばれ る。雨は降ったり止んだり。何パーティか、雨のなか重太郎新道を登っていく。やがて、今日は下山にしようか、というようなことになり、テント撤収。木下さ んはいわく「無線を飛ばしたとき、下で待っとけ、といってくれへんかと思ったが」と、下山の雰囲気をテレパシーで感じ取っていた模様。
 昼すぎ岳沢テント場にさようなら。
 上高地から通常交通機関のバス、電車で松本駅。木下、中川はステーションビバーク。森本、岡尾は早帰りとのことで松本駅にて解散、どうもお疲れ様でした。今年は雨でこのようになったが、これもいい思い出。新人が南稜を経験したことは大いに評価できることと思う。

1997.8.12 中川好治

元大阪労山の仲間とともに

元大阪労山の仲間とともに


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