800

Home > 資料の目次 >


世界文化遺産

世界遺産(文化遺産)に登録されたことについて新聞に掲載より引用
(しんぶん 赤旗 2013年5月)

田代 博
1950年、尾道市生まれ。
筑波大学付属高校社会科教諭
富士に関する著作多数

 

 5月1日の朝、出勤すると何人もの生徒が私を見て「おめでとうございます」と言ってくれました。富士山の世界遺産登録勧告の報道を受け、「富士山先生」というニックネームがある私へのお祝いだったのです。

広大さに驚き

 富士山が世界遺産となることは、その価値が世界でも認められたということですが、手放しでは喜べません。マスコミの報道では、課題として環境保全やオーバーユース(過剰利用)などが取りあげられることもありますが、極めて重大な問題が素通りされています。それは、周辺の演習場(基地)の問題です。
小著『今日はなんの日ヽ富士山の日』(新日本出版社)の世界遺産の項で私は次のよに書きました。
「裾野へのゴミ投棄や、無秩序な開発なども大きな問題ですが、何より考えなくてはならないのが演習場(基地)の存在です。トイレなどよりも質的にも量的にも重大な問題なのですが、マスコミなどもほとんど触れていません。
憲法第9条や安保条約と正面から向き合わなければならなくなるからでしょう 演習場の広大さは、地図を莞ると改めて驚かされます。
今回の勧告は、富士山の「信仰」と「芸術」を中心とした25の構成資産の文化的価値が、文化遺産としての条件を満たすものとして認められたものです。その「個々の構成資産は、それら自体で意味を持つのではなく、ひとつの大きな絵の中の(複数の)要素である」とされています。

文化と対極的

 現地調査も行っているイコモス(国際記念物遺跡会議)は、あの大きな演習場の存在は気にならなかったのでしょうか。「霊峰」に向かって砲撃をする軍事演習は文化とは対極的な位置にあるのですが。。。
富士山の入山料が大きな話題になっています。直接的には地元静岡、山梨両県の問題ですが、「利用者」全員にかかわることであり国民的な議論が必要です。
同様に、富士山を本当に日本のシンボルにふさわしい存在にするためにはどうすればよいか、山梨、静岡県民だけでなく、日本に住むみんなが考えなければなりません。その大きなきっかけが今回の世界遺産登録勧告だと思います。
明治以降、「軍国日本」の象徴として富士山が扱われてきたことは否めませんが、本来は平和と繁栄のシンボルのはずです。21世紀の日本のあり方を考えるためにも、富士山を見つめたいと思います。

田代 博


Home > 資料の目次 > 

800