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北斎の赤富士

 富士山を愛し、富士の詩を書き、富士の絵を描いた文人墨客の多い中で、絵師葛飾北斎ほど富士を愛し、これを最高級の芸術品となし得た人は少ない。北斎の富嶽三十六景がこれである。このうち、「凱風快晴」という絵は、俗に「赤富士」と呼ばれ、世界的傑作として広く知られている。ピカソがこの絵に最大級の賞讃のことばを贈ったというのも、それだけの価値があったからであろう。「赤富士」は、そそり立つ赤肌色をした富士に対して、山麓の樹林帯と青空を流れて行く鰯雲(気象学では巻積雲)のコントラストが雄大に描かれている。凱風とは南風のことである。

 南風が吹き、高い空に巻積雲が現われているところをみると、台風がおしよせて来る前日か前々日の早朝、東側から朝日に輝く富士山を見て描いたものと推測される。

 富嶽三十六景は、三十六箇所を選んでそれぞれの場所から眺めた富士山を描いたもので、いちいち隅田川とか甲州石班沢のように説明がつけてある。その多くは浮世絵風版画の特徴であるところの馬子とか茶屋だとか旅籠などの風俗絵であるが、その絵の中に演じられている人間ドラマの焦点が富士山に置かれているところに特徴がある。

 北斎は、「富嶽三十六景」を描く前にも、「不二八景」を描いている。そして、「富嶽百景」を書き終えたのは彼の晩年であった。

 


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